オリジナルSS2

『『腐女子』と『武器』が出てくる切ないお話を書いてください。』

彼女の武器はペンだ。一心不乱に原稿を描く彼女に彼は言う。「よすんだ。そのカプは需要がない。大体、君は落選したじゃないか」彼女は手を休めない。「これだけなの。これがなくなったら私どうしたらいいの？」「見てごらん。世界には日々新しいＢＬが生まれている」彼の言葉に彼女は静かに涙した。

『朝から想像力を働かせてみるのはいかが？「カレー、ハート、血」とかどうかしら 』

料理を作ったことのない人間にカレーを教えるのがここまで大変だとは思わなかった。「人参をハートに切りたいんです」とか無駄に凝るし。どうにかして煮込むだけになったところで、いきなり鍋の上で指をナイフで切ろうとしたので慌て止める。「血で愛情を入れるおまじないです」「あんたのは呪いだ！」

『すっかり夜ね。寝る前に「ミカン、理、ジャンク」で何か作ってみてはいかが？』

時間がない・安い・深夜でも店が開いているそういう理屈で彼女は今日もジャンクフードだった。「せめて果物でも食べろ」と彼は彼女のほうに買ったばかりのみかんを放り投げる。「ビタミンCは美肌に必要だ」「あんたの言葉って理詰めばかりね」そう言いながらも、彼女は嬉しそうにみかんの皮をむいた。

『おやつの時間よ。「デウス・エクス・マキナ、追復曲、赤」で何かお話を考えてくださらない？』

荘厳な追復曲、真っ赤なライトに照らされデウス・エクス・マキナが降臨する。滑車で吊られた張りぼての神様が。「あれ？」戸惑う私の横で彼女は言った。「サブカルの影響で誤解している人も多いけど、あれが本来の形。物語を強引に解決するご都合主義の装置なのよ」哀れむように、彼女はそれを見た。

『おやつの時間よ。「新月、料理、レギンス」で何かお話を考えてくださらない？』

「料理を作りに来たっていうのに何が不満なのよ！」寝っ転がった彼を見下げて彼女は言う。「折角、ミニスカエプロンなのに……」　彼の長い手が彼女のレギンスを引っ張った。「綺麗な足なんだし脱いでくれよ」　ここままじゃ破られかねない。新月なのに狼に変身されても困る。渋々彼女はそれを脱いだ。。

『「ロングスカート、時、８」とかどうかしら 』

朝８時に待ち合わせて、ドライブで連れて来て貰ったのが山の上の公園。「ロングスカートか」彼は残念そうに言った。「あのねえ」文句を言おうとした時突風が吹く。帽子を抑えるので精一杯でスカートは無防備に大きく翻った。「まあ悪くないか」うって変わって笑顔の彼の脛を、彼女は全力で蹴り上げた。

『おやつの時間よ。「控えめの優しさ、トンボ、リクルートスーツ」で何かお話を考えてくださらない？』

窓の外はトンボの群れ。電車に飛び乗り面接先の資料を鞄から出そうとすると、ビターチョコが出てきた。さっきまで受けていたゼミで一緒の彼のものだ。院に進む彼と、未だリクルートスーツの自分。「大変だね」と言った彼に逆ギレしてしまった。「甘くない」　お礼くらいは言おうと携帯を取り出した。

『そうねぇ・・・。「悪人、サッカー、カスタネット」とかどうかしら』

「俺はブブゼラを超えてみせる」と彼はサッカー競技場で持ってきた楽器を打ち鳴らした。ただ、それは小学生のとき使っていたカスタネットである。ブブゼラどころか、歓声にそれは掻き消えた。「お前には悪人なんて無理だよ」何があったか知らないが、小心者の友人に付き合わされて、彼は嘆息を付いた。